はじめに ― こんなニュースを見て不安になっていませんか?
「不同意性交等罪で訴えられたくなければ、金を払え」
こんな脅し文句で金銭を要求する恐喝事件が、2023年の法改正以降、全国で報告されています。
先日も、デリバリーヘルスの従業員が客に対し「不同意で性交された。警察に訴えたら捕まるよ」と告げ、示談金名目で150万円を要求した上に現金5万円を脅し取ったとして逮捕される事件がありました。
「自分は関係ない」と思った方も多いかもしれません。しかし、この種の犯罪は性的サービスの利用者だけでなく、マッチングアプリやSNSで知り合った相手との間でも起こり得ます。しかも、被害者の多くが「恥ずかしくて誰にも相談できない」と泣き寝入りしているのが現状です。
この記事では、防犯アドバイザーの視点から、不同意性交等罪を悪用した「現代版・美人局(つつもたせ)」の実態と、巻き込まれないための自衛策、そして万が一被害に遭った場合の対処法をお伝えします。
この記事を読んでほしい人
- マッチングアプリやSNSで異性と出会う機会がある方
- 若い家族(息子、兄弟など)を持つ保護者
- 性的サービスを利用したことがある、またはこれから利用するかもしれない方
- 「不同意性交等罪」について正しく理解したい方
不安を煽るつもりはありません。ただ、知っているだけで防げる被害があります。
不同意性交等罪とは? なぜ犯罪に悪用されるようになったのか
2023年の刑法改正で何が変わったのか
2023年7月、刑法が改正され、従来の「強制性交等罪」が**「不同意性交等罪」**に変わりました。
主な変更点:
- 暴行・脅迫がなくても、相手の同意がない性行為は犯罪
- 酔っている、眠っている、驚いている状態での性行為も対象
- 被害者が「NO」と言えない状況を利用した行為も処罰される
この法改正自体は、性犯罪被害者の保護を強化するために行われた、非常に重要なものです。しかし、法の理念と実際の運用の間に生じる「グレーゾーン」を悪用する者が現れたのです。
なぜ悪用されやすいのか
不同意性交等罪が恐喝に利用されやすい理由は、以下の3点です。
1. 「同意」の証明が難しい
性行為の最中に録音・録画をしている人はほとんどいません。そのため、「同意があった/なかった」の証明が極めて困難です。
2. 被害を訴えられること自体が社会的ダメージになる
たとえ最終的に無実が証明されても、「性犯罪の容疑者」として報道されたり、職場や家族に知られたりすることへの恐怖が、被害者を黙らせます。
3. 恥や後ろめたさにつけ込める
特に既婚者や、性的サービスを利用した人は「自分にも落ち度がある」と感じやすく、警察への相談をためらいます。
「美人局」の新しい手口 ― 実際に何が起きているのか
昔ながらの美人局との違い
従来の「美人局」は、性行為の最中や直後に「夫」や「彼氏」を名乗る共犯者が現れ、「妻(彼女)に手を出しただろう!」と因縁をつけて金銭を要求する手口でした。
しかし、現代版はもっと巧妙です。共犯者が登場しないケースも多く、加害者(恐喝する側)が一人で完結することもあります。
典型的な流れ
ステップ1: 出会いの場を設定
- マッチングアプリやSNSで接触
- 性的サービス(デリヘル、出張マッサージなど)の利用
- 相席居酒屋、ナンパなど
ステップ2: 性的な関係を持つ(または持とうとする)
- 相手は同意しているように見える
- 場合によっては、相手から誘ってくることもある
ステップ3: 事後に「不同意だった」と主張
- 「嫌だったけど断れなかった」
- 「酔っていて同意できる状態じゃなかった」
- 「怖くてNOと言えなかった」
ステップ4: 恐喝・金銭要求
- 「警察に訴える」「会社に言う」と脅す
- 「示談金を払えば許す」と提案
- 数十万円〜数百万円を要求することも
よくあるパターン
パターンA: 計画的な犯行
最初から恐喝目的で近づいてくるケース。相手は複数の被害者に同じ手口を使っている可能性があります。
パターンB: 金銭トラブルからのエスカレート
当初は本当に性的サービスの提供を考えていたが、料金トラブルや気に入らないことがあり、「それなら不同意だったと言って金を取ろう」と発展するケース。
パターンC: 第三者の介入
事後に「相談相手」として別の人物(暴力団関係者、悪質な探偵など)が登場し、被害者を代理して金銭を要求するケース。
なぜ被害者は警察に相談できないのか
恥ずかしさと後ろめたさ
この種の恐喝被害の最大の特徴は、被害者が声を上げにくいことです。
- 「性的サービスを利用したことを知られたくない」
- 「不倫がバレる」
- 「家族に知られたら…」
- 「会社に連絡されたら…」
こうした恐怖心が、冷静な判断を奪います。
「自分も悪いのでは」という思い込み
多くの被害者が「自分から誘いに乗ったのだから」「お金を払うと言ってしまったのだから」と、自分を責めてしまいます。
しかし、それは大きな勘違いです。
仮にあなたに何らかの落ち度があったとしても、恐喝・脅迫は明確な犯罪です。相手の行為を正当化する理由には一切なりません。
「示談金を払えば終わる」という誤解
「お金を払えば穏便に済む」と考えて支払ってしまう人がいますが、これは危険です。
- 一度払うと「まだ払える」と判断され、追加要求される
- 示談書にサインしても法的効力がない場合が多い
- 払った後も脅迫が続くケースがある
狙われやすい人・状況の特徴
こんな人が狙われやすい
1. 社会的地位がある人
- 会社員(特に管理職)、公務員、教員など
- スキャンダルを避けたいという心理につけ込まれる
2. 既婚者
- 配偶者に知られたくないという弱みがある
3. 判断力が鈍っている人
- 深夜の時間帯、飲酒後
- 疲れているときやストレスを抱えているとき
4. 相手の提案を断れない性格
- 優しすぎる、人に嫌われたくない
- 「NO」を言うのが苦手
危険な状況・場所
個室で二人きりになる状況
- ホテル、相手の自宅、自分の自宅
- カラオケ個室、密室のマッサージ店
お酒が入る場面
- 相席居酒屋、バー、クラブ
- 「もう一軒行こう」と誘われたとき
記録が残りにくい場所
- 防犯カメラのない場所
- 現金決済のみの店
今日からできる自衛策 ― お金をかけずにリスクを減らす
基本の心構え
「自分は大丈夫」と思わない
誰でも被害者になり得ます。「気をつける」ことは恥ずかしいことではありません。
「NOと言える」練習をする
小さなことから断る練習を。「ちょっと考えさせて」「今日はやめておく」など、やんわり断るフレーズを用意しておきましょう。
お金をかけない対策(優先度:高)
1. 初対面の相手と密室で二人きりにならない
- 最初のデートは人目のある場所で
- ホテルや自宅に行くのは、相手のことを十分知ってから
2. お酒は自分でコントロール
- 相手にペースを合わせない
- 「もう飲めない」とはっきり言う
- 自分の飲み物から目を離さない(睡眠薬混入の可能性もゼロではない)
3. 相手の情報を事前に確認
- マッチングアプリなら、プロフィールのスクリーンショットを撮る
- 待ち合わせ場所・時間を友人に伝えておく
- 相手の連絡先(LINE、電話番号)を保存
4. やりとりの記録を残す
- LINEやメッセージのやりとりは消さない
- 「会おう」「ホテルに行こう」といった提案がどちらから出たか記録に残る
5. 違和感を感じたらすぐ離れる
- 「この人、何かおかしい」と思ったら、その直感を信じる
- 「せっかく来たから」「悪いから」と無理に続けない
お金をかける対策(余裕があれば)
1. 性的サービスを利用する場合は、大手の店を選ぶ(1万〜3万円)
- 個人経営や無届けの店は避ける
- 口コミサイトで評判を確認
- 料金体系が明確な店
2. ドライブレコーダー・録音アプリの活用(0〜5千円)
- 車内でのやりとりを記録
- スマホの録音アプリで会話を残す(ただし相手に伝える必要がある場合も)
3. 弁護士保険への加入(月額2千〜3千円)
- 万が一トラブルに巻き込まれた際の相談先を確保
もし脅迫・恐喝の被害に遭ったら ― 絶対にやってはいけないこと、すぐやるべきこと
絶対にやってはいけないこと
✗ その場で現金を渡す
一度払うと終わらなくなります。
✗ 示談書にサインする
法的に無効な場合が多く、脅迫の証拠を消すことにもなります。
✗ 一人で抱え込む
恥ずかしくても、専門家に相談することが最善の解決策です。
✗ 相手と個別に交渉しようとする
素人が交渉すると、さらに不利な状況に追い込まれます。
すぐにやるべきこと
1. 証拠を保全する
- メッセージのやりとりをスクリーンショット
- 通話記録を保存
- 金銭要求の内容を記録(日時、場所、言われた内容)
2. 専門機関に相談する
警察
- 最寄りの警察署の生活安全課
- #9110(警察相談専用電話)
- 「恥ずかしい」と思わず、恐喝の事実だけ伝える
弁護士
- 法テラス(0570-078374)で無料相談
- 日本弁護士連合会の法律相談センター
消費生活センター
- 188(いやや)
- 契約トラブルとして相談可能
3. 周囲の信頼できる人に打ち明ける
- 家族、親友など
- 一人で判断しない
警察への相談のコツ
「恥ずかしい状況だったのですが…」と前置きした上で、恐喝の事実を淡々と伝えるのがポイントです。
伝えるべきこと:
- 相手から金銭を要求されたこと
- 「警察に言う」「会社に連絡する」など脅された内容
- 要求された金額
- これまでのやりとりの経緯(簡潔に)
警察は、あなたの性行為そのものを裁くために来るのではなく、恐喝という犯罪から守るために存在します。
まとめ ― 知識が身を守る、恥は一時、後悔は一生
不同意性交等罪を悪用した恐喝は、法の盲点を突いた卑劣な犯罪です。しかし、正しい知識と冷静な対応があれば、被害を防ぐことも、被害を最小限に抑えることもできます。
今日から実践できること:
- 初対面の相手と密室で二人きりにならない
- お酒の量は自分でコントロールする
- やりとりの記録を残す習慣をつける
- 違和感を感じたらすぐ離れる
- 万が一の時は、一人で抱え込まず専門家に相談
そして何より大切なこと:
仮にあなたがどんな状況に置かれていたとしても、恐喝・脅迫は犯罪です。「自分も悪かった」と思う必要はありません。
もし周りにこの種のトラブルに悩んでいる人がいたら、この記事をシェアしてあげてください。誰かの助けになるかもしれません。
防犯は「怖がること」ではなく、「備えること」です。知識という武器を持って、安全な日常生活を送りましょう。
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